『反日メディアの正体 「戦時体制(ガラパゴス)」に残る病理』の簡素な感想

肯定的な評価をするなら、古谷氏がこれまで展開してきたアンチ・マスメディア論に的を絞った集大成的な著書であり、否定的な評価をするなら過去に書いた記事を再構成しただけの手抜き本。

例えば、第二章の『韓流でみえた「反日メディア」の病理』第三章の『テレビ局は巨大企業ではない』なんかは「テレビ・韓流・ステマした」で述べている事を修辞を変えて多少の付け加えをしているだけだし、『「イプシロンロケット」打ち上げ成功を打ち消す無自覚の悪意』は「ネット右翼の逆襲」の一節『「はやぶさ」帰還騒動と自滅するメディア』と多分に重なるところがある。
『インターネットは「恐竜」(マスメディア)を駆逐するか』と、既存のメディアを恐竜に準える論調は「フジテレビデモに行ってみた!」から全く変わらないし、NHKの大河ドラマ平清盛」に於ける王家呼称問題を反日的と批判するに至っては呆れるより他無い。



古谷氏の過去の著作「竹島に行ってみた!」は実際に竹島渡航した体験談を綴ったものであり、一箇の見聞録としても読めた。

ネット右翼の逆襲」のネトウヨアンケートは調査方法その他に瑕疵が無いわけではないが、ネット右翼千人にアンケートを採るという、今まで誰もやらなかった試みに挑んだ姿勢は評価されて良いと思う。

「フジテレビデモに行ってみた」は、フジテレビデモに参加した著者自身の視点で描かれた国旗損壊事件の顛末に価値を見出すことが出来るかもしれない。違法行為を犯す人間が内面でどのように反社会行為を正当化し、国旗引き摺り下ろしなどというホシュを自称する者にあるまじき大醜態をやらかした経緯が丁寧な筆致で綴られている。


モノの大小はあれど、古谷氏は本を書くにあたっては労を厭わず、それなりに汗を流していた。少なくとも近著「ネット右翼の逆襲」まではその痕跡が見受けられた。

一転、「反日メディアの正体」では自身が過去に書いた記事の焼き直しが大半を占めているし、何より「既存メディアに反日のレッテルを貼って腐す」という右翼論壇では手垢がつきにつきまくった手法など新鮮味が微塵も無い。
ネトウヨやフジデモという、隙間産業宜しくニッチなテーマを扱っていた頃の古谷ツネヒラに比べると個性が薄れた感は否めない。


或る学問を血の滲む思いで修めたわけでもなく、社会経験の浅い人物(これは古谷氏に限った事では無いが)でも充分に論客が務まる保守論壇、及び市場の肥沃さを個人的に確認させる一冊であったと思う。極めて個人的な意見として。







因みに、韓流云々の下りではフジテレビデモについても触れられてはいるが、矢張りというか古谷氏がやらかしちゃった国旗引き摺り下ろしの愚行に関しては一切の言及無し。「反日メディアの正体」でマスコミ関係者の犯罪行為をようようと糾弾する古谷氏だが、自分がしでかした違法行為は反省どころか言及も無し。

保守を気取りながら日の丸を力ずくで引き摺り降ろす人間のほうが、よっぽど反日的だと思うけれどもなあ・・・。